第8章 血
また会おうと約束を交わし、見送り役のソロモンと共に私とレイは外に出た。
外はもう日が沈み、肌寒い風が肌を撫でる。
「行ってしまわれるのですか?」
「ええ。あなたも行く?」
「え!?」
冗談のようで冗談でないつもりの言葉にソロモンは驚きを見せた。
「サヤが好きなんでしょ?」
リセ・ドゥ・サンクフレシュで見たソロモンの微笑みは私に向けたものではなく、サヤに向けたもの。
あの時、私の存在を知るすべがなかったはずのソロモンが私に微笑むのはおかしい。
もし、私だと認識していたなら、最初の表情は驚きだろう。
前回のそれは、サヤに向けたもの。
そう考えれば辻褄は合った。
私の問いに彼の端麗な口元が微笑でほころんだ。
「はい」
どうやら予測は合っていたようだ。
「どうするの?アイツ…アンシェルはサヤを殺せと言ったんじゃない?」
「全てお見通しのようですね」
アンシェルは昔からサヤのことを嫌っていた。
否、邪魔に思っていたと言うのが正しいかもしれない。
奴のことだ。
それくらいのことは想像ついた。
「いざとなったら血を越えなさい。大丈夫、あなたは一人じゃない。あなたは自由なのよ。縛られる必要なんてない」
…私みたいにね。
「それと、ディーヴァをよろしくね」
「はい」
私はくるりと自身の身体を反転させ、名残惜しい感情を押し殺し、夜の街を歩き始めた。
「レイ、もう少しだから、ごめんね」
後ろから付いて歩いてきているレイに向かって放った声は小さすぎて彼には届かなかっただろう。
今はそれでよかった。
一段と綺麗な星の下、なぜか血の臭いが鼻を突いた。