第2章 目覚め
誰か呼んでる。
瞼をゆっくり開けると眩い光が差し込んできた。
「誰?」
目の前には見知らぬ青年。
肩につかない位の黒くまっすぐな髪の毛にエメラルドグリーンの瞳。
黒の燕尾服を身に纏っている。
英国の従者を思い出させる。
横になったまま青年に目だけを向けていた。
「ナル…目覚めの時だ」
ナル……そう呼ばれたことがある気がする。
私は誰だろうか。
「ナル、こっち向いて」
その優しい声に導かれるように青年の言葉に従うと、いきなり柔らかいものが唇に触れた。
反射的に目を瞑ってしまったが、それが何かを確認しようと目を再び開いた。
先ほどと同様の眩い光とともに視界に入ってきたのは青年だと思われる顔。
それも、距離が近すぎる。
まさかと思うと同時に確信する。
何かは唇だということを。
その刹那、青年の口から自分の口へと生温かい液が流れ込んできた。
唾液ではない。
口内を刺激する鉄のような味。
唇を塞がれてしまっているため、その液をどうすることもできずゴクンと喉を鳴らし飲み込む。
青年は満足したように唇を離した。
口の端から垂れた液を親指の腹で拭うと赤黒く染まった。
血という単語が脳裏に浮かんだ瞬間、激しい痛みに襲われた。
頭から何かを引っ張り出されるような痛みと疲労感。
身体が入った液を喜ぶような動悸と快楽。
正反対な感覚が嗚咽を呼ぶ。
ひどい感覚が襲った後、走馬灯が駆け抜けるように記憶が蘇った。