第6章 歌姫
「ディーヴァ駄目よ、落ち着いて」
優しくあやすとディーヴァの目は獣から無垢な子どもに変わった。
「あなた、だぁれ?」
「私はあなたの姉。家族よ」
「家族?」
首を縦に振り肯定をすると、ディーヴァではなく男が口を開いた。
「馬鹿な…!!ディーヴァは双子だぞ」
驚きと疑いを含めた言葉は早口で紡がれた。
「本当よ。あなたはディーヴァのシュヴァリエね。初めまして、私はナリファイ。ディーヴァとサヤの姉よ。彼は私のシュヴァリエのレイム」
シュヴァリエという単語を口にした途端に男の表情が変わる。
「しかし…!」
もう、本人の中では事実だと確信を持っているが、認めたくないと思う気持ちも持ち合わせているのだろう。
用心深く、厄介なシュヴァリエである。
私は御託を並べようとした男に対して強い口調で命じた。
「まだ嘘だと思うなら、アンシェルに聞きなさい。彼は真実を知っているわ。それと、今はここから出て行って。あなたではご機嫌斜めのお姫様を止められない。はっきり言って邪魔よ」
男はさすがに馬鹿ではないらしく、すぐに部屋を出て行った。
静まり返った部屋で、私の腕の中にいるディーヴァの目が青く光った。
「ディーヴァ、もう怖くないよ」
誰だって起きた時に光が届かない冷たい鉄の箱の中に入っていれば恐怖を覚える。
さらにようやく光が見えたと思えば、自分が見世物のように外から覗かれていたらどうだろう。
また閉じ込められるのでは?
自分はこれからどうなる?
そういった小さな不安や恐怖が重なってしまい、ディーヴァは暴走したのだ。
「…姉様?」
消え入りそうな声は確かに耳に入ってきた。
「なに?」
「あったかい」
目覚めの血を受けていないため記憶はないはずなのに、昔と同じ言葉を言うディーヴァが愛おしくて、私は抱きしめる手を強めた。