第6章 歌姫
「いやぁーーー!!!」
少女の叫び声がこだまする朝。
その日はある会社の前で目覚めを迎えた。
フランスの大企業、サンクフレシュという製薬会社の本社である。
ディーヴァを乗せたと予測したトラックを追い、その到着地がここだった。
見かけ上はいたって普通の会社だが…。
少女の叫び声は赤子の夜泣きのように続いた。
これでは近所迷惑…でもないか。
少女はおそらくディーヴァだ。
眠りから覚めたのだろう。
ディーヴァの叫び声は同じ血を持った者のみに伝わる。
言わば、蝙蝠が仲間と更新する超音波である。
そのため、日が昇り始めた早朝の現在、万が一人がいたとしても特殊なディーヴァの音階では聞き取ることすらできないということである。
近くに人がいないのをいいことに、側にいたレイを引っ張って堂々と正面玄関から入った。
出勤時間にはまだ早いにも関わらず、正面玄関が開いていること自体不自然である。
まるで、どうぞおいでくださいと言われてるような気分だ。
声は下から。
リセ・ドゥ・サンクフレシュを出たトラックはそのままコンテナをこの会社の地下に運び入れたのだろう。
さすがにこの時間から出社している社員はおらず、誰にも会わずに地下へと辿り着いた。