第35章 ジンベエザメの試練 番外編
『殴られる』瞬間的にそう思った。
だけどそんなの元より覚悟してきたことだ。殴られたって何されたってそれでも俺はヒカリと一緒にいたい。
目を瞑り、ぐっと歯を食いしばって親父さんの拳を待っていた時だった。
「あーあ、昔は『パパのお嫁さんになる!』なんて言ってくれてたんだけどなあ・・・」
聞こえてきたのは拍子抜けしてしまうぐらいに穏やかで優しい親父さんの声だった。
「ヒカリは今、君に夢中なんだね・・・寂しいけどしょうがないんだね・・・」
「・・・」
「やっぱりね、僕も父親だから娘の彼氏なんて認めたくなくって、何でもいい粗探ししてやろうって思ってたんだ。ごめんね、宗介くん」
「あ、いえ・・・」
「でも、宗介くんと一緒にいる時のヒカリの嬉しそうな顔を見て、そんな気持ちはどこかへ行ってしまったよ。あんな幸せそうなヒカリの顔、初めて見た」
「・・・」
「それにね、宗介くんにも文句のつけようなんてなかった。ご飯の時、ヒカリたくさんしゃべってうるさかったでしょ?それなのに宗介くん、そんなヒカリの話をうんうんって嬉しそうに聞いてくれてた」
「・・・」
「ヒカリがコーラをこぼしてしまった時も、宗介くんは何よりも先にヒカリの心配をしてくれた。ありがとう、宗介くん」
「い、いえ、あれは・・・」
「・・・・・・ヒカリはさっき言ったようにまだまだ子供っぽいけど・・・素直ないい子だから・・・だから宗介くん。どうかヒカリをよろしくお願いします」
ヒカリの父親が俺に向かって小さく頭を下げるのがわかった。俺も慌てて姿勢を正して、ヒカリの父親としっかりと向き合い、答える。
「・・・はい」
俺がはっきりとそう答えると、親父さんはもう一度にっこりと笑ってくれた。