第35章 ジンベエザメの試練 番外編
「・・・マジかよ」
ヒカリの家を目の前にして、俺は数時間前から何度目になるかわからない『マジかよ』を呟いた。
・・・いや待て。この状況、前にもあった気がするぞ。気がする、じゃない。確かにあった。夏休み、数学の宿題を教えてやるためにヒカリんちに来た時だ。
あの時はまだよかった(いや実際にはよくなかったが)ヒカリが何もわかってないだけで、俺がただひたすらに理性を働かせて我慢すれば済む話だったんだ。
だけど今日は違う。俺はこれからヒカリの両親に会う。いや、ちゃんと挨拶に来るつもりだったんだ。凛に相談して俺はそう心に決めたんだ。
だけど・・・だけどよ・・・ヒカリに電話したその日に、じゃあ今日の夕方来てくださいって、なるとは思わねえだろ!!
普通は数日空けて、とか少なくとも翌日、とかじゃねえのか?!
いや・・・わかる。ちゃんとわかるんだ。年末でこれから仕事が忙しくなるけど、今日なら早めに切り上げられるっていうヒカリの両親の事情はよくわかるんだ。寧ろ、都合を付けてくれてありがたいとも思う。
でもよ・・・俺にも心の準備ってものがいるんだよ!まさか電話してその当日に来いって言われるとは夢にも思わないから手土産も何も・・・
「・・・っ!やべ・・・!!」
そこまで来てやっと、俺は手ぶらでここまで来てしまったことに気付いた。この前みたいにヒカリだけならそれでよくても、さすがに親に会うのに手ぶらじゃまずいだろう。少し遅くなっちまうが、どこか店を探して・・・いやその前にヒカリに連絡入れて・・・そう思って携帯を取り出そうとした時だった。
クラクションの音がして、ハッと顔を向けると、近くまで一台の乗用車が来ていた。すぐに端に避けて、道の真ん中に突っ立って考え事をしていた自分を反省した。やばいな、俺・・・こんなんでちゃんとヒカリの親に挨拶・・・
「宗介くん?山崎宗介くん、だよね?」
「え?あ・・・はい・・・」
すぐに通り抜けていくと思った車はなぜかまだ俺の目の前に停まっていて、その窓から一人の男性が顔を出した。辺りはもう暗くなってきているからはっきりとは見えない。だけど俺の名前を知っているということは、この人は・・・