第19章 悩める季節 その2
バタバタと慌ただしく俺達の前から去っていくヒカリ。その後ろ姿を凛と二人して、ポカンと見つめる。
「お前・・・ヒカリとケンカでもしたのか?」
「いや、してねえよ。あいつがなんか急におかしくなったんだよ」
「はぁ?!何だ、それ」
「まあ・・・あいつがあんな感じになるの、珍しいことでもねえし大丈夫だろ。後で電話しとくわ」
「お、おお・・・ま、お前らがそれでいいんならいいけどよ」
俺がそう言うと、凛はなんとか納得したような顔をした。
・・・まあ多分ヒカリのことだから、一人でぐるぐるとああでもないこうでもないと色々と考えてるんだろう。それで、普段うるさいくせに変なところで遠慮するから、なかなか言えなかったんだろう。
恐らく、そうたいしたことではないんだろうが、あいつがあいつなりに一生懸命考えたことを聞くのは、俺は嫌いではない。たいてい俺が噴き出してしまって、ヒカリを怒らせてしまうが。
風呂出た後ぐらいで電話してみるか、と思いながら俺は凛とプールを後にしようとした。
「あれ?江、お前どうした?」
「ああ、お兄ちゃん、宗介くんも。ね、ヒカリちゃん、こっちにもいないよね?」
着替えを終えた江が、少し困ったような表情でプールの方まで出てきていた。その手には見覚えのあるコートが掛かっていた。
「・・・あいつ、もう帰っちまったのか?」
「う、うん。何かものすごい早さで着替えて・・・ほら、コートも忘れて、逃げるように帰ってっちゃったの」
・・・たいしたことあるのか?一体何考えてんだ、ヒカリの奴。
「宗介くん・・・ヒカリちゃんとケンカでもしたの?」
「いや別に・・・」
兄妹で同じこと聞くなよと思ったが、ヒカリのことが気にかかり曖昧にしか答えることができなかった。