第2章 はじめての時間
裏山で見つけた私だけの秘密の場所で、今日も一人でお弁当を食べていた。いつか撮った先生と私のツーショット写真を眺めながら、先生とのやり取りを思い返す。
――だから、願いも三つ叶えます。
――本当に? もしその願いが結婚して! とかだったとしても?
――にゅゃっ!
――冗談だよ。そういうのはお願いして叶えてもらっても意味がないもん。
いつも一線を画しているようだった先生が、その時はとても近くに感じた。
先生の体温がそのまま私の掌に残っている。多幸感に包まれて、思わず口元が緩くなった。
何にしよっかな、と考えながら教室に戻ると、空気が浮かれていた。
茅野さんの手にあった京都の観光雑誌が視界に入り、もうすぐ修学旅行があることを思い出した。
私はこの椚ヶ丘市から出たことが一度もない。他の町や県がどんな風なのか知りたい気持ちもあったけど、修学旅行はグループでの行動が主だから私にはきっと無理だと思った。しかもこのクラスの修学旅行はただの旅行じゃない。暗殺に適したコースを巡る、暗殺旅行。
深いため息をつこうとした時だった。
「ねえ! 私と同じ班にならない?」
驚いて、弾かれるように顔をあげた。
目前には茅野さんの笑顔。
「はともりさんってなんか私と同じ感じがするんだよね」
私はどう答えようか逡巡した。すると隣からも声がかかった。
「お、いーじゃんそれ。オレらの班ちょうど人数少ないし」
「他には渚と奥田さんと杉野くんに神崎さんがいるよ! どうかな……?」
「……いいの?」