第2章 二度目の人生
「検査の結果は特に異常は見つかりませんでした。タブン、何らかのストレスが原因ではないかと思われます」
カルテを見ながらそう言った小児科の先生の言葉を何処か他人事のように聞き流す。
異常は無いと言う、そんな訳はない。
自分は18歳の大学に入学したばかりの女子学生だったのだ、それが今は12歳の小学六年生の男子児童になっていて異常がない訳がない。
だけど、それを口にした結果が今の状況だと知っているからそれを口に出せない。
「異常がないって先生!この子は悲鳴を上げて倒れて、しかもおかしな事を話したんですよ!?異常がないなんてそんなッ」
「落ち着いて下さいお母さん」
「すっすみません」
「いえ、ですが。現に異常は見つかりません。夢と現実の区別が出来なかった可能性がありますね。思春期の子供によくある事ですよ」
これが夢だと言うなら問題はない。
だけど、あの日から一週間が過ぎても状況は変わらない。
父親はどこぞの企業の社長、母親は典型的な名家の生まれのお嬢様育ちって感じの人。
どうりで子供部屋の割りに広い訳だと、それを知った時納得して苦笑した。
家族構成は父・母・兄・兄の5人家族。
上二人の兄は東大医学部と法学部に在籍しているエリート。
歳の離れた末っ子として可愛がられているらしいが、そんな家柄の子供がある日突然変な事を言い出せば、それはそれで一大事だろう。
自分の状況を必死に伝えた時の目の前の母親と言う女の人の気持ち悪いモノを見るような顔を今でもハッキリと覚えている。
そしてバタバタと病院へと連れてこられた。
その時に思った。
ああ、これは口にしてはいけない事だったのだと。
「優仁君、まだおかしな夢はみるかな?」
「ううん、もう見ない。ごめんなさい変な事言って」
「本当に!?大丈夫なのね優仁?」
「うん、ごめんなさいお母さん」
そう言えば母親はギュッと身体を抱きしめる。
心配したのよと何度も言いながら。
不意に思い出すのは自分の本当の母親の事。
きっとあの人なら、この状況説明した時にきっと『まあ大変ね、これからどうしましょう?』なんて暢気に言うだろう。
だけど、そこには疑いはない。
私の言葉を信じて一緒に考えてくれる。
あの人はそんな人だ。