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第2章 うしろのしょうめんだーぁれ



「で、エレンは?」
急に話が振られる。
「はい? あ、……ああ、どうしてハンター試験を受けたのかって?」

二人は違うとは言わず、話の先を促した。
実は話を聞いていなかったりするんだけど、うまくごまかせた。

「理由は………」


…………理由、は……――


――咽が凍る。口は無意味に動いて、でも言葉は出なかった。

遙か眼下の夜景が、遠ざかる。あらゆる熱が冷えて動きを止めた。

茫然自失として、わたしは黙したままだった。
「言いたくないなら、無理に言わなくても良いよ」
ゴンは様子に気付いてくれたようだ。
虚ろに返事して、口を噤む。

理由は……話してはならない。知られてはならない。胸の内に留め、決して外へは出さないこと。
それは戒めであり、「くびき」であった。


――今。
初めて実感する、わたしを捉えて放さないもの。悲しい程に冷たい鎖。

……鎖?

一端を掴んでいるのは、アレは、誰だ。

誰かが何処かで慟哭している。
鬱蒼と茂る森の深奥。
寒々しい山の牢獄。
焼け爛れた多くの墓。
息せぬ友のかたわら。

過去のイメージか、未来のヴィジョンなのか。
全ては記憶の中にあった。わたしは全てを見ている。……見下ろしている。熱を持たない者として。




……そして向こう側に、わたしが見えた。




――何だ、これ……っ!
不気味な眩暈を打ち消そうと目を閉じる。思考さえ断ち切って、それから目を開ける。
はぁ。
それから何気なく後ろを振り向いて、
「あれ、ネテロ会長。こんばんわ」
廊下の曲がり角に半身を見せていた会長は、一瞬虚を突かれた表情をした。
しかし一瞬後にはいつものつかみ所の無い老人に戻って、こちらに歩み寄って来た。
「じいさん、何時の間に……」
キルアはフツーに驚いている。一瞬、いつもの虚勢が間に合っていない。
そーいえば、会長の気配しなかったな……。
老人は年を食うと子供っぽくなるって聞いた事があるけど。隠れて脅かそうとでもしたのか?
しかし食えないじーさんだよな。ただ者じゃ無いって事は分かってるけど、飄々とし過ぎ。むしろ怪しい。正体は妖怪だったりして?



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