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第2章 うしろのしょうめんだーぁれ


通路の片隅で、何かが動いた。一瞬だけ気配をちらつかせ、逃げる。
瞬間、緊縛していた時と神経が緩む。
ああ、あそこに居るんじゃねーか。
オレ達が居る場所と、缶を置いた袋小路、その間にある通路の奥の方だ。
ふ、と笑みを作る。
きちんと所在が判れば、どうということはない。感覚で捉えられる対象物が居るってだけで一安心。


「ねえ、キルア」
ゴンが小声で話しかけてくる。お互い耳はいいから、微かな声でも話が出来る。
「オレはこっちから廻るから」
オレはゴンに、にやりと笑って見せる。
「オレは反対から」
「同時に!」

あの位置。おそらくは缶を蹴りに来たオレ達をギリギリで出し抜いてやろうっていう魂胆だろう。
そうは行くか。あいつが缶を踏んでゲームセットにする前に、それを追い越して缶を蹴ってやる!




「よーい……」




カーーーーーーン




「えっ!?」

声を上げたのは、オレでも、ゴンでも無い。
オレ達よりも缶に近い場所、しかし――絶対に蹴れない位置。つまりは、エレンが居るはずの場所から声は聞こえた。

カラン、コロコロコロ………

硬直した空気の中で、軽く空洞な金属音が転がって…………
そして、
「あれ?」
エレンが角から顔を出してオレたちの存在を確かめる。それからもう一度缶が置いてあるところへと向かった。
「?」オレとゴンは顔を見合わせ、ぱっと走り出した。
缶を置いてあったところには、転がって倒れた缶だけがある。
「今、蹴ったの……誰だ?」

オレ達三人は互いに顔を見合わせた。
この飛行船は広い。この辺りはブリッジの近くで、客が利用する所から遠い。
缶を置いてある所には、人の気配なんて無かった。多分。
……正直、さっきの異様な雰囲気の中でははっきりとは断言出来ない。
ここに居るのは、オレと、ゴンと、それから。
「オレとキルアはここに居たよ」
「知ってる。そこの角からずっと見てたから」


「…………………」


誰も……居なかった……?


全員の頭上に”?”マークが浮かんでいるような錯覚を見た。

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