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妖狐の籠

第1章 狐


辿り着いたのはあの立派な祠

千夏は独りそこにいる

慌てて来たから『狐』の姿のままだが

今、『人』の姿に化けた所で

不思議がられるだけであろう…

何故ここに…?



「そこにいるのは誰? 狐さん?」


千夏がこちらを向き我と目が合う

もしかして…


「我が視えるのか…?」


「うん!で、誰なの?人間…?」


興味津々に近寄ってくる千夏

どうやら我が狐珀とは知らなぬようだ

…ここで真の事を教えるべきか?

それでもし千夏と離れてしまうようなら…


「我は『狐』であるぞ
普通なら『人』には視えぬはず…」


「えっ、そうなの!?
でも私、狐さんの事視えるよ?」


…そんな事は聴いたことがのうて

もしかして千夏は『人』ではない…?


「其方は『人』ではないのか?」


「えっ!?面白い事言うね狐さん
私ちゃんと人間だよ?
ねぇねぇそれより狐珀知らない?
丁度、狐さんと同じ髪の色の男の子なんだけど…」


「狐珀とやらは我は知らぬよ
その狐珀は
こんな夜に山の祠にいると言うのか?」


「いや… それは知らないんだけど
昔近くの川で遊んだ時に
狐珀がここに来たのを見たの」


…ということはあの時見られていたとて


「でもね、狐珀が祠に入った時に
大きくて黒い人が… 羽も生えてて…
そんな人がいたから逃げちゃったの…」


あぁ、なるほど 烏右に怯えて


「そうか、そうか
しかし、ここに狐珀はいのうて
危ないから早くお帰り」


「じゃあ狐さんとお喋りしていい?」


月だけが明るい夜空に

千夏の花が綻ぶような笑顔

我を見て瞳を輝かせるその姿は

籠に閉じ込めて

我だけ見ていれればよかろうて…
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