第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「…あれ、杖いらなくない?」
「……本来は、名前を刻むのだ」
と、セブルス自身そこは予想外だったようで、不思議そうに顔を見合わせてから仲良く部屋を覗き込む2人。
「……こ、これ…っ」
上手く言葉が出ない程に驚いた理由。それは慣れ親しみ、育って来た我が家。実家のリビング。正にその部屋が広がっていた。勿論、多少の差はある。ホグワーツの城の一室が一軒家の内装と同じになる訳が無いのだから。
それでも、その事実に気付いていても、瓜二つと表現してもいい程の物だった。
「この部屋は何百年もの間、開かずの間とされていた。言い伝えでは此処は“サラザール・スリザリンの婚約者”の部屋…とだけ…」
「婚約者…?……それで、何でダンブルドアは私にこの部屋を?」
そんな設定あったか?…ハリポタ好きではあったけど、掘り下げて調べたり読み漁ったりした事は無かった。それでも、サラザール・スリザリンに婚約者が居たとなれば、流石に目に付く所に情報が出る筈。
「…夏海・石田」
「ん?」
「その婚約者の名だ。肌は白く、髪と瞳は黒い。他の4人の創設者とは明らかに違う、現代でいう日本人の顔立ちだったと。」
「な、にそれ…。」
「……あくまで噂だ」
思ってない癖に。この部屋が私の部屋と言われた時も、私が扉を開いた時も、大して驚きを見せなかった。けれど1つだけハッキリした事がある。ハリポタの世界に日本人の記述は確かに見た事が無い。
これは私の知らない世界の物語か、或いは私という本来の物語から見た“異物”が、少しずつ何かに影響を及ぼしているのか。
「取り敢えず、中に入ろ。」
いくら日本の作りと言えど、此処はイギリス。靴のまま入り込もうとした所で、横長に2畳…いや、3畳程の広さ分を残して向こう側がフローリング。此方は廊下と同じ素材で出来ていた。
壁際に昔の甘味処の様な赤い座敷に鮮やかな傘が刺さっていて、「え、室内に?」と一瞬混乱したものの、取り敢えず下駄箱らしきBOXもあるしスリッパもあったので、靴を脱ぎ遠慮なくスリッパを履いて部屋に上がり込む。
「和洋ハッキリしろよ…。」
「ん?」
「いや、こっちの話。セブルスも外履き脱いでからこっちおいで。」
見様見真似…かと思いきや以外にもスムーズに事を進めて部屋に入るセブルスに感心して、左の扉を開ける。
