第2章 はじめましてと噛み合わない会話
逸る気持ちを抑えられずに、見上げたセブルスをじっと見詰める。「早く食べよ?」と、これではまるで“待て”を指示された犬のよう。それでもこの時は、そんな事に気付ける余裕は無くて、セブルスの“よし”=「いただきます」をただただ待っていた。
「昨日の朝、頼んでおいた。食欲が無い時は特に、食べ慣れた味に限る。」
「私の為に…?あぁもうっ!ありがとう、セブルス!!嬉しいよ!」
何だか懐かしい匂いがして、目頭が熱くなる。私達の到着に合わせたかのようなホカホカの料理と新鮮な刺身は、食欲を何倍にもそそってくれた。
漸くセブルスが席につき、手を合わせてから食事を開始。先ずは日本の味。お味噌汁をひと口啜れば、胃袋からじんわりと熱が広がる。日本にいた所で、一人暮らしでは味噌汁を作るのも手間でしかなく、たまにインスタントを作るくらいで殆ど味噌汁を口にする事は無くなっていた。
それでもこの味は、何処か祖母の味噌汁を思い出し、込み上げてくるものを押さえ込もうと、肉じゃがに手を伸ばした。ひと口頬張っただけで、押さえ込んだ涙がボロボロと溢れ出す。母の味。まさにその通りの味付けに、これまで押しやっていた元の世界への想いが溢れ出していくようだった。
「……っ、ごめ…美味しいね、セブルス。…はぁ、日本の…実家の味付けと同じだったから、吃驚しちゃったっ」
炊き立ての白米も祖父の作る米の味。父の好きな新鮮な魚の味。二人にして少な目だと思った料理も、お腹がと言うより、胸がいっぱいで完食するのは一苦労だった。
小皿に盛った料理を、アレからずっと大人しい鴉の籠に入れてやる。
「鴉って雑食だよね?食べれるかな。私の故郷の料理だよ。折角だから、君にも食べて貰いたいな」
本当に言葉が分かっているかのように、暫し私を見つめたその子は、やがて食事を取り始めた。
「ね、セブルス。それで“渡す物”って?本屋で良いのあった?」
魔法で食器を厨房に返し終えたセブルスに振り返り、涙の引いた顔を意識的に笑顔に変えて話しかける。
「…これだ」
綺麗に片付いたばかりの机に、ドサドサと古くなった本が数冊。雑誌の様なものが数冊。それとは別に、綺麗にラッピングされた包が4つ。所狭しと乗せられた。
「これは?」
「基本魔法集と魔法薬学の教科書、使えそうな古い教科書だが、良い年の物だ。」
