第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「…まだ信じられない。」
金庫の中には、視界に収まらない程の大量の金貨が、所狭しと積み上げられていた。他にも、宝石の付いたアクセサリーや、絵画の様なものも見られたけれど、その全てを見てまわる時間はなかったし。
その金貨が全部で幾らで、どれぐらいがこれからの生活に必要なのかも分からなかったので、取り敢えずセブルスに渡された袋にザクザクと流し込んでいくことにした。
巾着程度の袋に無心で金貨を詰める最中、隣の金貨の山にペタリと紙切れが貼ってある事に気付いた。何となく作業を進めながらその紙切れに目を通せば、見慣れた字で書かれたその文章は、驚く事に私から私への置き手紙だった。
『Dear;夏海
私は貴女であり、貴女は私です。
何も心配しないで下さい。
これから長い時間を掛けて、貴女は多くの時間を旅します。
貴女が必要とするお金は全て此処にあります。
貴女が多くを学び、行動した結果がこの金庫にあります。
未来の私は貴女のこれからにかかっています。
どうか貴女の手で、物語に光を。
From;夏海』
もう1人の私は、私の事を知っている。読みふけっている最中も、勿論金貨を袋に詰めていて、これから向かう必要経費はセブルスに別口に詰めてもらっていた。片手が空を切った頃、丁度セブルスに呼ばれて初めて知った。
渡された巾着は魔法が掛けられていて、そうとは知らなかった私は、無心で小さな山1つ分の金貨を袋に流し込んでいたらしい。
色んな事にショックを受けつつ「時間が無い」と急ぐセブルスを追い掛けて、ボロボロのトロッコで更に校長に頂いた金庫に向い、中身を確認だけして漸く帰りのトロッコへ乗り込んだ。
怖いを通り越して催し始めた吐き気を何とか耐えたところで、漸く外の空気を胸いっぱいに吸い込む事が出来たのだ。
「我輩もまさかあそこまでとは…。校長から預かった金庫にも前金とは思えない額でしたな。」
「あれは返すよ。あんなの受け取ったら、セブルスや他の先生に申し訳ない。」
「別に、誰も知らないのだから受け取ったらどうかね。校長が素直に引き下がるとも思えん。」
「気持ちの問題だよ。」