第2章 はじめましてと噛み合わない会話
「待って。セブルス待って、やっぱり怖い!」
「目を閉じろ。すぐに終わる」
「むりっ、ゃ…やっぱり…こわ…」
「騒ぐな。手荒な真似は嫌いだろう。」
「だって、……っ、だって!トロッコがこんなボロいなんて聞いてない!」
グリンゴッツに向かい、セブルスがゴブリンに何かを伝えると、怪し気に私をジロジロと見詰めた。気分が悪く、ガンを飛ばしたところで漸く奥に通された。
そこで件のやり取りが行われるのだ。予想外過ぎる程に崩壊直前のレールとトロッコ。
「お前が行かなければ、金庫は開かない」
「うん。うん…、そーだね…ごめん。」
これはジェットコースター…。そう、ジェットコースターだ。いつものように目を閉じて、ただ終わるのを待てば一瞬の事だ。溜息をついて蝙蝠とゴブリンとでトロッコに乗り込む。
右手はトロッコの縁を握り、左手はセブルスのローブを巻き込んでゴブリンの座る背凭れに張り付かせる。足は勿論、前の座席の窪みに捩じ込む。
「…まだ?まだ動かない?…動く時言ってね?…まだっああああああああああァァァあぁあ!?!?!」
「動きますぞ」
おっせぇんだよ、ゴブリン!!!!動いてから言っても意味ねぇだろおおおおおお!?やばい、ミシミシ言ってる!トロッコミシミシ言ってる!!
「っ、…~~~~~~っ、……っ」
思っている事の一欠片も口には出ず、揺さぶられるだけ揺さぶられて、気付けばトロッコは動きを止めていた。
「…着きました。ランプを此方に。」
一言も発さないまま淡々と作業を進め、ゴブリンに続いてトロッコを降りるセブルス。ヨタヨタと後を付いて行く私に、何事も無かった顔でゴブリンが手招きする。
「石田様、此方へ。失礼。」
懐から取り出した小刀で流れる様に中指の先を切り付けられ、ビックリして腕を引っ込めた。
「え?ちょ、なに?」
「この金庫は鍵がありません。特別な金庫です。契約主の血の契約により、この金庫は管理がなされます。」
「へぇ。あ、ここ?」
切り口から溢れ、表面張力を破って滴った血液を、扉の窪みにほんの1滴だけ落とした。鈍い金属音と、仕掛けが解除されていく大きな音を響かせて、漸くその金庫は口を開いた。