第2章 はじめましてと噛み合わない会話
ポケットに押し込められたままのブローチに手をかけ、それが杖である様に見せかける。
「おい、聞いているのか!」
「んー?聞いてる聞いてる。ドラコは凄いね。いっぱい考えてる。」
実際大して聞いてなかったが驚く事に「父上がそう言った」と言うセリフは聞こえてこなかった。純血や家柄をメインに語られるものの、両親の立場や、一人息子の立場。案外多くの事柄をこの歳で考えているらしい。
思わずポンポンとドラコの頭を撫でてしまえば、騒ぐかと後悔したのに、顔を真っ赤に染めて俯くこの子が何とも可愛らしくて。思わずクスリと笑ってしまった。
「お、お前は!ち、父上と…どういう関係なんだ?」
意を決して発せられた言葉は予想外のもので、問われて初めて気付いた。…そういえば、ルシウスとは初めましてなはず。もしかしなくても、彼も私をもう1人の夏海さんと間違えているのだろうか。
「んー…、何だろねぇ」
「…?」
他人の空似です。関係はありません。何て言ったらドラコの事だ、ルシウスを心配してしまう。どうしたもんかと考え込んでいる間に、背後で扉が開いた。
「待たせてすまない。
ドラコ、私はこの方と少し話がある。先に帰っていなさい。漏れ鍋に迎えを寄越した。」
「ち、父上!………いえ、わかりました。」
きゅっとローブが握られる感覚に愛らしさが増して、放っておけなかった。
「ドラコ、もし良かったら。また私とお話してくれるかい?」
ローブの裾を付かないように手繰り寄せて腰を落とす。目線を合わせて、ドラコのプラチナブロンドに指を通しながら声を掛けた。
「っ、も、勿論!」
途端に子供らしい笑顔を見せたこの子に、キュンキュンと胸を締め付けられて、促されるままに約束を交わす。
ダイアゴン横丁の入口までドラコの手を取り、彼を見送ってからルシウスとカフェに入った。終始大人しいルシウスが少し怖い。
カフェオレと紅茶。汚れた女と貴族。何だか場違いと言うかなんと言うか…。
「そろそろ汚れを落としたらどうかね」
「あー。お恥ずかしながら、杖が無いのです」
「ほぅ」
何か思い当たる節がある様な顔をして、杖を振った彼は私の汚れを綺麗に取り去ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
「この10年、何処で何をしていた」