第26章 (日)焼け石と水
歩き続けた末、ようやっと秋津の家に辿り着いた。
ポストを開け、石畳の上を進み、玄関の引戸の鍵を開ける秋津の背中を目で追う。上がってもいいのかな、どうだろう、と私が逡巡していると、「何しているんです、お入りなさい」と言って玄関から手招く秋津。
お茶でもご馳走してくれるのだろうか。嬉しい。
先に上がるのも気が引けて、戸口を跨いだ後横に避けて待っていると、秋津は玄関の戸を閉め内側から鍵をかけたままなかなか上がろうとしない。
じっと私を見て、それから急に抱きしめた。
「わ…な、なに!?」
「寒い寒いと言っていたので、そんなに冷たいのかと思いまして」
「抱きつくのはいいけど予告をください!」
「…なるほど、確かにいつもより冷たい」
いつもよりってなんだ、いつもよりって。私はそんなに秋津に抱きつかれた覚えはない。
それより近い!近いんですけど!首を少しめぐらせるとすぐに秋津の耳に頬が触れて、思わずびくついてしまう。
それを感じた秋津は僅かに喉を鳴らして笑いながら体を離した。しかし下駄箱に私を押し付けるような格好で、腕は私を離さないままだ。
「赤いですね」
「はい!?」
「頬が」
「はい!!」
動揺しすぎて頭で考える前に返事が突いて出る。よほど私がおかしいのか秋津は声に出して笑うと、ぐっと顔を近づけてきた。
呼吸が止まる。