第12章 (闇日)かごめ (戦争、血、暴力表現有)
がしゃあん、と遠くで音がした。意識が落ちかけていた私は、ふと瞼を開ける。
世の中五月蝿い。こんなにも五月蝿い中、よく人は生きていられるものだ。
数回瞬きをして、ぼんやりと床を見た。
瞼が重いけれど、目を閉じたら次はいつ開けられるか。もしかしてもうずっと閉じたままになるかもしれない。
永遠に眠るのかもしれない。
それもいい。
けれどそれならばせめて菊を想って眠りたかった。菊を想いながら時間に殺されて逝きたかった。
私の中の菊、最後にもう一度出てきて。
そしたら目を閉じるから。
薄汚い天井を最後に、私の視界は閉じた。
「………!」
けたたましい物音に次いで叫び声。侵入者だろうか。
関係ない。
「 !!」
物音。怒声。関係ない。
眠らせて欲しい。
もう、眠らせて。
「……!どけ!退かぬなら私の刀の錆となるが、よいか!」
ふと、遠くの声が耳に入った。
低く鼓膜に落ちる声。すごく好きな声だ。
誰かに似ている。
人の断末魔と足音。警報の音がひっきりなしに鳴る。
ばたばたと複数の音が慌ただしく床を駆けて、私に響いた。
「璃々は何処だ!」
誰か探している。捕虜になった人は皆地下だ。ここじゃない、と教えてやりたい。
気の毒に、誰かが捕まってしまったのだろう。
私は濁ったような気持ちを抱えて息を吐いた。