第11章 (黒日)玩具 (捕虜になったヒロイン)
「顔を上げなさい」
声がした。私は横向きに倒れ地面を見ていた瞳を僅かに上げる。
両手は後ろに縛り上げられ、何もわからぬままにここに放り込まれたのだ。
縄で擦れて手首が痛い。だがそんな事はどうでも良くなる程に、私は今恐怖を感じていた。
「顔を上げなさい。聞こえないのですか」
低い声が響いて、私はびくりと肩を震わせる。
顔を上げなければ。顔を上げたい。上げなければ何をされるかわからない。
だけど、体勢が苦しくて、身体は衰弱していて、力が入らない。
結局、虚しく息をついただけで。
かつ、と足音がした。鼓動が跳ねる。唇が震える。
まるで私の恐怖を煽るようにゆっくりと近づく足音に、私は戦慄を抑えられなかった。
私の知る彼でありませんように。闇のような彼でないように、どうか。
しかし。
彼であって欲しくないけれど、この鼓膜を浸すような声は彼でしかない。わかっている。
これは、彼だ。彼なのだ。
非情で無情で残酷な程に冷たい、彼。