第4章 迷夢…
「着いたぜ、ここだ」
不意に言われて顔を上げると、そこにさっきまでの喧騒はなく…
代わりに、着物の襟を大きく肌蹴た女達の、噎せ返るような香水の匂いに溢れていて…
「二宮君、ここ…は?」
聞かなくたって、凡その見当はついてる。
それでも確かめられずにはいられなくて、僕は二宮君の肩を掴んだ。
でも二宮君は振り向くこともせず、一軒のカフェーを指差すと、ボクの手を振り切るようにして、そちらに向かって歩を進めた。
「あ、あのっ…」
「ここ、俺の家。まあ、家と言ってもご覧の通り、だけどな?」
そう言って二宮君は、安っぽいステンドグラスで飾られた扉を開けた。
「おい、そんな所に突っ立ってないで、来いよ」
「で、でも…」
「なんだ、がっかりしたか? こんな所に住んでる奴が学友だ、って…」
「べ、別にそういうわけでは…」
「だったら遠慮することはないだろ? ほら、早く来いよ」
二宮君が僕の腕を引き、僕は引き摺られるようにしてカフェーの中に足を踏み入れた。
僅か十坪程の店内に充満した煙草の臭いに、息が詰まりそうになる。
「適当に座れよ。あ、何か飲むだろ? 珈琲でいいか?」
「あ、ああ…、うん…」
二宮君が店の奥に消えて行くと、益々身の置き場に困った僕は、辺りを見回してから、入り口近くに空席を見つけて、そこに腰を下ろした。