第3章 傷…
夕食の味なんて、まるで分からなかった。
何を口に入れても、何を噛んでも、砂を食べているかのように口の中がザラつき、無理矢理飲み込んだ後には苦さだけが口の中に残った。
「坊っちゃま、お口に合いませんでしたか? それとも体調でも?」
僕の箸が進まないのを気にしてか、照が食後の珈琲を用意しながら、声をかけてきた。
「そんなことはないよ。ただ、あまりお腹が空いてなくて…。ごめんね、折角作ってくれたのに残してしまって…」
照に心配をかけてしまったことが心苦しくて、僕が頭を下げると、照は“とんでもない”といった風に笑って、首を小さく横に振った。
「あら、兄さまったら、こっそり美味しいお菓子でも召し上がったのかしら?」
智子が悪戯っぽく笑う。
僕の気持ちなんて何も知らずに…
「あ、ああ、そうだよ。とっても美味しいお菓子でね、ついつい食べ過ぎてしまったんだ」
「そんなに美味しいお菓子なら、智子も食べてみたいわ…」
智子が指を咥え、強請るように僕を見る。
嘘だと疑うこともせずに…
「すまないね、智子。もうお菓子はないんだ。あんまり美味しいから、全部食べてしまったんだよ」
「狡いわ、兄さま…。智子も食べたかったな…」
智子が拗ねたように頬を膨らます。
僕がその顔に弱いことを知ってるくせに…
「ごめんね? 今度はちゃんと智子の分も残しておくから、そんな顔しないで?」
僕の胸が、まるで茨に締め付けられたように、痛むから…