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君の計算を狂わせたい【黒バス/花宮】

第10章 冷たい雨




それからしばらくして、私達は駅に戻った。

花宮との別れは呆気なかった。


「じゃあな」
 
 
別れ際、花宮は珍しく清々しい顔をしていたと思う。

らしくもなく片手なんか上げちゃって、別れの言葉を告げられる。

改札の向こうにその後ろ姿が消えていくのを見届けて、私も踵を返した。
 




駅を出て、相変わらずじりじりとした日差しの下、私はいつもの道を歩く。

そういえば、と思い出して歩く足を止めた。

花宮を追いかけていく時に初めて通った商店街。

あそこで気になるお惣菜屋さんを見かけたんだった。

今日のお昼はあそこのにしよう。
 
 



「ただいま〜」
 
 
玄関のドアを開けて、鍵を靴箱の上に置く。

家の中からは当然のごとく返事はない。

カチャリ、と鳴る金属の音がやけに明瞭に聞こえた。
 

動くたびに足にはりつくビニール袋を片手に、ペタペタと廊下を歩く。

リビングの扉を開けると、じとっとこもった空気が私を迎え入れた。

 
「窓開けて出かけたら危ないもんね、しょうがないしょうがない」
 
 
誰に言うでもない一人言を呟きながら、ビニール袋をテーブルに置いて冷房をつける。

機械音がピピッと鳴ると、生ぬるい風が流れはじめた。


時刻は十三時過ぎ。

すっかりこんな時間になっちゃって、遅めのお昼だ。
 

「お箸〜」
 
 
キッチンに入って、乾燥だなからお箸を探して、ふいに視界に入ってきたお鍋。
 

「あ……」
 
 
蓋を開けてみると、一人分くらいのシジミのおみそ汁がまだ残っていた。

改めて乾燥棚を視界に映すと、そこには二人分の食器。

 
「…………」
 
 
私は無言で自分の箸だけを掴んだ。

テーブルに戻って、ビニール袋からプラパックのお惣菜を引っ張り出す。

めんどくさいから、お皿には移さなくていい。
 

「…………」
 
 
掴んでいた箸をテーブルに置いて、私は行儀悪く椅子の上で体育座りをした。

体の奥のほうで、ぐるぐると何かが締めつけてくる。


私はぎゅっと膝を抱きかかえた。
 


無音が、私を包み込んだ。



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