第13章 それはあまりにも突然で
「純平ってさ、今彼女とかいるの?」
「はあ!?」
私の何気ない質問に、純平の顔はみるみるうちに赤らんでいく。
「えっ、うそ、本当に!? どんな子?」
私がぐいぐいと尋ねると、観念したのか純平は大きく息をはき出した。
「……同じ大学の子」
「へぇ……会ってみたいなぁ」
「たぶん姉ちゃんと気ぃ合うと思うけど」
「そっか……」
「姉ちゃんは?」
「え?」
「まだいい人いないの?」
胸がにぶく痛んだ。
自分が立てた波なのに、私の方が足をとられて溺れそうになる。
ズキズキと心臓が主張してくる。
誤魔化そうと笑ったのだけど、それはずいぶん乾いたものになってしまった。
「……私はまだそういうのはいいかなぁ」
「ふーん……まあいいんじゃね? 姉ちゃんらしくて」
「……そうかな?」
純平と目が合うと、私の様子がおかしいと感じたのか、彼は少し考える素振りをしてから話しだした。
「俺もさ、いいなって思う子だったから付き合ったわけで……姉ちゃんもこの人だって思う人が現れてからでいいんじゃねーの。そういうのって、急ぐもんでもないだろ」
「そういうもの?」
「そーそー」
純平の語り口が思いのほか軽くて、思わず笑ってしまった。
「なんか、純平の方が経験豊富だね。アドバイスありがとうございます、純平ししょー」
「そんなんじゃねーよ、やめろよ」
純平は照れたように顎を上げると、顔をそむけた。
たぶん、彼なりに私を気づかってくれたのだろう。
姉思いのいい弟だ。
この先、私にもこの人だって思える人が現れるのかな。
花宮との時間は鮮明で、とても塗り替えることはできなそうだけど……。
いや、塗り替える必要はないのかな。
忘れなくてもいいのかな。
もっと気楽でいいのかもしれない。
そうだ、テストが終わったら、夏休みだし、時間はたっぷりとある。
そう思うと、ずいぶん心が軽くなった。
まだしばらく、胸に留まるこの気持ちに名前はつけなくていい。
開いた窓から風が入り込んで、リビングのカーテンを揺らす。
蝉のうるさい鳴き声が聞こえてきた。
私は鼻歌を歌いながら立ち上がった。
to be continue...