第9章 どうなってやがる(花宮side)
花宮side.
しばらくその場に佇んで規則正しく並ぶレンガを眺めていたが、やがて俺はマンションの周りをぐるりと歩いてみることにした。
マンションは、生い茂る木々と白いフェンスに囲まれている。
夏の眩しい青空。
赤茶色のレンガ壁。
それを囲む緑と白。
憎らしくも、それは結構絵になっている。
駅から徒歩10分ということもあり、そこそこ高物件なのではないかと考えて、なんとなく舌打ちがでた。
木陰の揺れる細道を歩きながら、俺は冷静に考える。
なぜ、霧崎第一高校がなくなっているのか。
正直わけがわからないが、昨日までは普通にそこに通っていたのだから、何か原因があるはず。
何度目になるかわからないが、昨日のことを振り返ってみる。
夏休み直前だからか、授業は午前いっぱいで終わりだった。
定期テストも過ぎ、どこか浮かれた空気をまとったクラス。
そこから抜け出せば、午後は部活。
我が霧崎第一高校バスケ部は、インターハイを予選決勝で敗退しているので、やっぱり部員達はどこか気が抜けていたと思う。
夏休み前特有のぐずぐず感はあったものの、そこまではいつもの日常。
特に変わったことはなかったはず。
だとすれば、やっぱり。
「戸締りの時の、煙……か」
どう考えても、あの煙が普通じゃなかった。
あの煙で自分の身に何かが起こった。
それは間違いない。
タイムスリップでも起こったか?
神隠し?
「はっ、バカらしい……」
暑さで頭がやられたか。
いや、この状況は普通じゃない。
シャワシャワと蝉の音が響いている。
木々に囲まれたこのマンションの欠点を上げるなら、蝉がうるさいことだな。
シャワシャワ、シャワシャワ、鳴り響く音に、思考が混濁していく。
ふと、自分の家はあるのだろうかと気になった。
今のところ駅からの道を確認しただけだが、霧崎第一高校だけがすり変わっていた。
通学路自体は変わっていない。
何が変わっていて、何が残っているのか。
高校の同級生、チームメイト、自分の通っていた中学、今まで当たり前に存在していたもの達は、今もちゃんとあるのだろうか。
それらが、儚く消えていく感覚を想像する。
自分だけが、ここに取り残される。
ふるり、真夏日だというのに、うすら寒くなった。