第1章 VRAINS
遊作の知り合いはホットドッグ屋を営んでいるらしい。そのキッチンカーがある場所まで歩く間、2人はポツリ、ポツリと会話をする。
どうでもいいような他愛のないものだったが、公園を横目に過ぎようとした時幼い少年たちが会話をしているのが耳に入った。
リンクブレインズを見に行くらしい。彼らのお気に入りらしい、カリスマデュエリストの名前が挙がる。
「…、リンクブレインズ行くんだ。良いな」
「(…!)―――名字さんはやらないのか、デュエル」
「ううん、やるよ。…でも、リンクブレインズではやったこと無い、と思う」
「思う…って、どういう事だ?」
遊作は確信犯的に聞いた。学校で彼女がデッキを眺めているのは何度か見た事があった。きっとデッキの調整をしていたのであろうと推測している。
「…何か、機械と相性悪いのか、リンクブレインズにアクセスした後から、記憶がなくなるみたいだから」
「記憶が…?」
「うん…気付いたらログアウトしてるし、デュエルしたかどうか覚えてない。ログ見てもまっさらだし、何もせずにログアウトしたのかなって」
そう言うと名前は、寂し気にその瞳を伏せた。
最近はSOLテクノロジー社の最新デュエルディスクのアクセス権が優先されるので、込み合う時間はなかなかアクセスできないという事もあるらしい。
「そうか…、…そう、なんだな」
「…藤木君はそれが聞きたかったの?」
「?」
「教室で話した時から何か聞きたいのかなって、思って」
「…気に障ったらすまない」
「ううん、珍しいと思っただけ」
変わらない表情。少ない言葉数。ストレートな物言い。そんな名前に、大抵の人間は近づいて来ないのだ。
「嫌じゃないのか?他人に敬遠されるのは」
「分からない」
「分からない?」
「うん。気にしていた時もあった、ような気もする」
もう殆ど無いに等しい記憶を思い出すかのように話す名前に、遊作は少なから違和感を覚えたのだった…---。
【君に近づく―中編―】
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今更ですが、この遊作はアイちゃん入手前です。