第1章 VRAINS
放課後、夕暮れの音楽室。
その教室には2人だけが残っていた。
1人の生徒は黒板を背に静かな旋律を作っている。
やがてその歌が終わると歌い手の生徒はゆっくりと歩き、机に突っ伏して微動だにしないもう1人の生徒に声をかける。
「…藤木君、帰るね」
「…」
「藤木くーん」
どうやら本気で寝ているらしい。睡眠不足なのだろうか。
授業も終わり、生徒もいなくなった教室。何となく歌いたくなって音楽室で歌っていたら突如として現れたのが同じクラスの『藤木遊作』だった。
唐突に『聞いていても良いか』と聞かれ、特に断る理由も無かったので『どうぞ』と答えて今に至る。
特別親しい間柄ではないが、このまま放って帰るのは流石に悪い気がしてトントンと肩を叩く。
「…、…ん…」
「藤木君。帰って寝た方が良いんじゃない」
「…あぁ…、…悪い…、…」
「じゃあ」
半分寝ぼけていそうだが、相手だって高校生。覚醒してから動き出すだろうと踏んで歩を進める。そうして何歩か彼から離れた時。
「―――…名字、さん」
しっかりとした声で呼び止められた。
「…うん?」
「よくここで、歌ってるのか」
「…まぁ…たまに、かな」
「また、聞きに来ても良いか」
「…!」
予想外の質問に少し驚く。
「…寝ているんだとばかり」
「いや…寝ては、いたんだが」
「…?」
『聞いていると、心地良くて…』と遊作はバツが悪そうな顔をして言った。
そんな彼に歌を聞かせるようになるのは、それから間もない事だった…―――。
【子守唄を君に】
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