第40章 【片想い】×【夏】
「あの時、名前が同じだとは思わなかったから本当に驚いたよ。」
「本当にそうですよね。」
あの時はなんで知らない人が私の名前を知っているんだろうと、すごく驚いた。
「……あの時、君と間違えたのは…
昔付き合っていた彼女だったんだ。君には、ずっとただの知り合いだって言ってたけど。」
「そう…だったんですか。」
やっぱりそうだったのかと思う。そうなのかもしれないといつも考えていたから。
「君と出会う前の夏に交通事故に遭って、もう会えなくなってしまった。
あの日君を見間違えたのは、まだその事を信じられなかったからかもしれない。」
驚いた。そんな出来事があったなんて。
それと同時に、聞いていて私まで悲しくなった。
「それと…君に謝りたい事がある。」
蒼依さんは突然立ち上がり、座っている私の前に立った。
そして、勢い良く頭を下げた。
「ごめん!」
「!?頭、上げてください。」
どうして謝るのか分からなくて、必死に止める。
暫く下げてから、ゆっくり蒼依さんは頭を上げた。
「俺は君を彼女と重ねていたんだ。君は夏にしかここに来ないから。
彼女が夏の間だけ帰ってくるみたいで、俺は夏が楽しみだった。」
私と同じ名前のその人を重ねていたこと、とっくに知っていた。
来た時の驚いた顔も、優しくこっちを見る目も、別れる時に振ってくれる手も、
偶に聞こえないくらいの声で聞こえる名前も。
私には向けられていないことくらい。
だから、それは彼女なのかも知れないと考えていた。
改めて言葉にされると余計に辛くなって。やっぱり私はこの人が好きなんだと悲しくなる。
「いいんです、謝らないで…ください、」
馬鹿で臆病な私は、自分の想いを伝える事も出来ずに。
「あの…蒼依さん。」
「…?」
「…これからも私をその彼女さんだと思ってください。私は、平気ですから。」
そう言うと、蒼依さんは少しだけ嬉しそうに笑った。
「……ありがとう……雨衣ちゃん。」
初めて、蒼依さんがちゃんと私の目を見て私の名前を呼んでくれた。
でも、これが最初で最後だから。
私の事を見てくれなくても、私のことを呼んでくれなくてもいい。
少しでも私が蒼依さんの力になれるなら、夏の間一緒にいられるなら、
私はそれで構わない。