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≪刀剣乱舞≫ 春日狂想

第3章 静かの海で 〜後日譚〜


とわは名残惜しむように、ぎゅっと俺の胸に顔を埋め。
一拍置いて深呼吸すると顔を上げた。

「んー…、名残惜しいけどそろそろ戻らないと…」

そう本当に心から残念そうにぴったりとくっついて居た身体を少し離した。

「それもそうだな…。今の状況がバレたらまた蜂の巣をつついたような大騒ぎになるしな」
「うん、皆と一緒に寝るって約束だしね」
「…戻るか?」
「ん…、戻る」

そうお互い上辺では仕方ない、納得しなければと言う会話を交わしているが、愛おしみに絡んだ指先はなかなか離せないまま、とわの言葉を最後に沈黙が落ちる。

静寂の中、言葉もなく、見つめ合う事もせず。
お互いの指を柔く握ったり、爪の先をそっと撫でたり。
無言の愛を交わし合う。

どれくらいそうしていただろう。
ほんの数秒にも思えるし、もう何十分にも思える。

そんな曖昧に感じた、胸が苦しくなるような時間を終わらせるように、不意にとわが一際強く絡め合った指先に力を込め顔を上げた。

「私、毎日こうやって薬研と一緒に寝たい…。毎日一日の終わりに薬研の腕の中で眠りに落ちて、毎日一日の始めに薬研に触れたい…。薬研が傍に居ないと心が死んじゃう……。だって私、どうしようもないくらいに薬研を愛してるんだもの」

そう唐突に沈黙を破った彼女の声は力強く。
今この瞬間、俺を見つめる薔薇色の瞳は凛とした意志を宿していた。

彼女のその言葉が、その瞳が。
眩しくて、ただ、ただ眩しくて。
心が光に溺れ、侵され、満ちて行く。
光の濁流に呑まれながら俺は漸く理解した。

嗚呼、これが"愛してる"って感情なのか。

「俺も…、俺も……愛して、る」

光に眩んだ心からはそれだけを途切れ途切れに絞り出すのがやっとだった。
そして俺は光に塗れたこの光景に我慢出来ず目を閉じ、誓うような口づけを一つ、そっと捧げた。
とわは静かににその誓いを受け止めると。

「愛してる、薬研…。この世の何よりも、誰よりも、神様よりも……」

そう言って、それはそれは嬉しそうに、今まで見た事のない程清らかに微笑んだ。


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