第3章 静かの海で 〜後日譚〜
「決めた!明日、皆にこれからは薬研と一緒に私の部屋で寝たいって言う。で、ちゃんと話し合ってわかってもらう!!」
「ああ、そうだな。勿論俺も皆にわかってもらえるよう努力するぜ」
俺は笑みを浮かべとわに同意し、彼女同様に絡めた指を強く握り返した。
そうと腹を括ればもう、言い様のない寂しさに揺れていた心はさあっと凪いだ。
それはどうやらとわも同じだったようで、先程とは違いにこにこと微笑みながら、繋いだままだった手を胸元まで持ち上げると俺の指先にちゅっと口づけた。
「薬研が同じ気持ちでいてくれて良かった…」
「それは俺の気持ちを信用してなかったって事か?こんなにも俺はとわを想ってるのに…」
そんな事はないと知りながらもまた意地悪くとわの耳元で囁き、その薄く白く闇に浮かび上がる耳朶を甘く噛む。
「ぁ…、っ…。そうじゃないけど私ばっかり薬研の事好きな気がして…」
「俺は夢に見るほどとわに焦がれてるってぇのに…」
今度は細い首筋を柔く吸い上げる。
するととわはぴくりと肩を跳ねさせながらも身を捩って身体を離し、俺を少し潤んだ瞳で睨みつけた。
「んっ…、もう薬研!」
「ははっ、悪りぃ悪りぃ。もうしねぇよ。戻るんだろ?」
「ん、そろそろ本当に戻らないとね。もう寂しくなくなったし」
「そうだな、俺ももう寂しくなくなった」
目と目を合わせくすりと笑いあい、どちらからともなく口づけを交わした。
そしてとわはそろりと俺の布団から出て行く。
「じゃあ、また明日ね?」
「ああ、また明日」
「おやすみ、薬研。愛してる…」
「おやすみ、とわ。俺の方がずっと愛してるぜ?」
笑みを浮かべそう告げれば、とわは俺にだけ見せる、これ以上ないくらいの極上の微笑みを零し、屈み込んで今夜最後の口づけをした。
そっと気配を悟られぬように自分の布団へ戻って行くとわを見送り、俺は明日の話し合いはきっと上手くいくだろうと何処か確信していた。
だって皆、とわをそれぞれのやり方で愛しんでいるのだ。
彼女に笑っていて欲しい、この戦いの中でほんの少しでも彼女に倖せだと感じる時間があって欲しい。
そう思っているに違いない。
例え俺がとわの恋人でなくても、きっと俺もそう願うだろうから。