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【YOI・男主人公】小話集【短編オムニバス】

第4章 番外篇・僕と『ヒゲ』


『愛について~師と弟子~・2』


先程より僅かに目つきの険しくなった藤枝を見て、そのコーチは反射的に下を向く。
勇利も当時のコーチから「上林くんは試合でもあんなに冷静なのに」と純を引き合いにメンタルの弱さを指摘されたり、その純が故障して競技を中断した時も「君は上林くんのようにはなるな」と言われ続けた末、とうとう嫌気が差してシーズンの途中で師弟関係を解消していたのだ。
「俺は、間違っていたのか?俺のせいで上林くんは…」
「お前も『ヤツ』も、俺なんかよりずっと優秀なコーチだろうが。ただ、お前の指導は純には合わなかった。それだけの事だ。…当時『お前ら』が、早急に結果を出すようどっかから突き上げ食らってたのは、気の毒だったがな」
当時の男子は、優秀な選手達が様々な理由で現役を引退し、一時世界でまともに戦えるシニア選手が、勇利と純だけになっていた。
次世代への隙間を埋める為にも、学生で競技引退を決めていた純を執拗に引き留めようとしたり、勇利へも過度な期待と要求をしていたのである。
選手とは異なる圧力や強迫観念に囚われていた彼らに、藤枝は少しだけ同情の念を寄せると、踵を返して移動した。
「純ちゃん、ちょっといいか?」
「ナオちゃん、何?」
藤枝の呼びかけに至極自然に応える純の姿を、そのコーチは、信じられないといった表情で見た。
次いで、自分の視線に気づいた藤枝がさり気なく純の腰に手を回しながらこちらに意味ありげな一瞥を寄越してくる。
(…成程。上林くんはもう、スケーターとしても人としても君だけのものという事か)
見せつけられたかつてのコーチは、最早自分は純と関わる事が出来ないと悟ると、参ったとばかりに頭を振った。
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