第1章 出会いとそれと
「…お前という奴は……」
「……ま、まあそう怖い顔するなよ。俺だって、何も手ぶらで帰ってきたわけじゃない」
今にも掴みかかりそうな腕をおさえつつ、私は暢気な霧隠の言葉に違和感を覚えた
手ぶら?何のことだ
こいつにしては珍しく、手土産でも持って謝りに来たのだろうか。そうだとして、期待など微塵たりともしておらんが。
「風魔、お前式神がどうたらって俺に言っただろう」
「……それがなんだ。」
「式神を呼び寄せるには契約が必要で、んでその契約がキモだけど契約を結ぶってこと自体相当難しいだとかさ、」
「……何だ貴様、まさか今更やる気を出した、などと戯くわけではあるまいな」
「……
えっと、まあ」
何だその煮え切らない返事は。いかん、限界だ。
こいつは一回物理的行使で物を言わねば学習しない。
「ちょ、ちょっと!ちょっと待て風魔!お前キャプテンにそんな、」
指をこきり、とわかりやすく鳴らしてみせた私に、霧隠は今度こそ本気で周章狼狽といった様子を見せた。
「安心しろ、軽い体術に収めてやる」
「ん、なっ…!ほ、本当待てってばお前…!
っおい月!助けろって!」
この馬鹿の言葉に、私は一瞬ぴた、と動きを制止した。
こいつ、今何を言った?
単に咄嗟に口から出ただけの、出任せの名前だろうか。
と、私がそう思い直した矢先
「!」
「ご主人様の……
ためならばっ」
第三の影がどこからか私と間抜けた面の霧隠の間に降り立った。
瞬間、確かにその場の空気が肌で実感できる程度に変化したのを、確かに私は感取った。
……こいつ…
「ご主人様に仇なすものは許しませんよっ」
黒髪を風に靡かせた、この明らかに人間のそれとは違う風貌の女。
何だ、こいつは。一体どこから?
そもそも何故この場所にいる?
……その獣の耳と尻尾は一体?
…
何者なのだ…?