第3章 アイドルとマネージャー
「あ、アイドリッシュセブンのサブマネじゃん。」
よっ、と軽い挨拶をしてきたのはTRIGGERの八乙女楽だ。初対面から親しげに話しかけてきたせいか、今でも挨拶の仕方は変わらない。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
こちらもそう挨拶を返し、楽屋へ向かおうとする。
「あ、天にぃ!」
「名前。」
「あっ...。九条さん!今日はよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。」
陸はTRIGGERのセンターであり双子の兄の九条天を見ると、いつも目を輝かせている。
やはり、同じ業界に身内がいる事が少なからず支えになっているのかもしれない。
「(身内の支え。か...)」
「陽菜乃?」
いつの間にか天と話を終えていたらしい陸が、私の顔を覗き込んでいる。
「え!あ....ごめんね、陸さん。」
「ううん、俺は大丈夫。でも、何かあったら言ってね?」
「ん?」
「もしかして陽菜乃、疲れてるんじゃないかと思って。」
「確かに、前の私に比べたらそうかも。」
「やっぱり...!!大丈夫!?具合とか、悪くない?」
「大丈夫だよ、私が忙しくしてるって事はそれだけ君達がたくさんの人に必要とされてるって事なんだし。」
「そっか...!!俺、陽菜乃の頑張りに応えられるように頑張るよ!」
私の何気ない一言に感激したらしい陸は、目を輝かせてこちらに満面の笑みを向けた。
「ん、応援してる。大好きなアイドルだから。」
「う....うん!じゃあ、行ってくる!」
陸はこちらに手を振ると小走りで去って行ってしまった。
「ちょっと、七瀬さん!廊下は走らない!」と声をあげ、一織が後を追いかける。
「...大丈夫だよね、今の言い方。」
妙に陸の反応が引っかかったが、今は仕事をしなくては。私は一旦考えるのをやめ、歩き出した。
「『大好きなアイドル』か...。」
呟いた声の主の胸を高鳴らせるには十分な効果があったらしい。
「今日は頑張ろ!」
「毎日頑張ってもらわないと困ります!」
「うわっ、一織!?」
いつのまにか追いついていたらしい一織が陸の肩を掴む。
「どうして驚くんですか。今日は2人での仕事です。昨日打ち合わせたでしょう?大体...」
アイドリッシュセブンとして活動を始めてから、何回一織の説教を受けただろう。
「聞いていますか!?」
一織の声が控え室に響いた。
