第2章 車内にて。
「た...環君は妙に鋭いところがあるよね。今のが本当なのかどうかは置いておいてさ。」
私がそう言うと
「それに、素直な性格が災いしてたまにとんでもない事言うんじゃないかってヒヤヒヤさせられるよ...」
と、壮五が付け加える。特にMEZZOとしてユニットも組んでいる壮五は、半分は環のお世話係のような面がある。
「ヒナは、好きな奴とかいねーの?」
私と壮五のやり取りを聞いていたのか聞いていなかったのか、不意に環に質問を投げかけられる。
「んー...そうだなぁ。今は恋愛をしたいと言うより、アイドルとしてステージ上で輝く君達を応援していたいかな。」
「ふーん。そっか」
聞いてきた割に、素っ気ない返事を返すと環は持ってきたのであろうマンガを読み始めた。
「アイドルとして活動する以上、私たちは悪い印象を与えてしまうような事はできません。恋愛沙汰なんてもってのほかです。」
そう言っている一織の隣で
「俺たちの為に、自分のことを犠牲にしてくれてるなんて....俺、もっと頑張るよ!」
陸は鏡ごしに私と目を合わせ、所謂“アイドルスマイル”を向けた。
「七瀬さん、私の話を聞いていたんですか?あなたはいつも人の話を鵜呑みにして目の前に餌があるとすぐ尻尾を振ってついて行く...。」
「ちょ...一織、人を動物みたいに言うなよ!」
「七瀬さんは子犬みたいなものじゃないですか!」
「酷い!一織はそんな風に思ってたの!?」
一織と陸が、環を挟み言い合いを始めてしまった。初めこそ見慣れない光景に焦ったが、今となっては日常茶飯事になりつつある...。