第12章 惑わせ
「なぜ、私に……こんなにたくさんの痕を残したのですか」
まるで所有物とも言えるような痕。
仮に欲求不満だとしても、来たばかりの私にこんなことをするのは何か違和感を感じられた。
約二名、いや三名を除いて。
石切丸「さぁ、君はなぜだと思う?」
「……わからない、です。だから聞いているんです」
石切丸「こういうことは主、君が考えて答えを見つけるものだと私は思うよ……少しじっとして」
ぽんぽんと頭を撫でてきたかと思うと手を止めて真剣な表情になると私の両頬に触れてきて顔を固定された。
う、美しい顔が間近にっ……
「あ、ああッ…あの……」
石切丸「……大丈夫、そうだね。君は本当に……罰当たりな娘だね」
コツン、と額同士を合わせられて石切丸さんは優しく、まるで愛しいものを見つめるかのような瞳で見てくるものだから寝起きの私には刺激が強すぎた。
「だ、だから私にッ……んむっ」
石切丸「深呼吸、できるね?」
鼓動が高鳴っていると唇に指を当てられ深呼吸のことをいうのでとりあえず頷いておいた。
慌てるな、ということだろう。
言いつけ通りに深呼吸をして落ち着くが毎回こうでは疲れがとれやしない。
「……あ、石切丸さん朝御飯……えっと、あさげ……だっけ、食べましたか?」
石切丸「ん、まだだけど?」
「なら一緒に食事にいきませんか?みんなでの食事を目指しているので一人でも抜けてたら悲しいですので」
笑顔でそう告げると同じように笑って一緒にいってくれるということになった。
初めてあったときは、あんなことがあったのでドキドキばかりしていたけど普通にいい人のようだ。
普通に…………いい……ひ、と?
石切丸さんが私にしてきたことを思い出すとはっきりと決めるにはちょっと抵抗があった。
本当は痕のことより先になぜ私に……私をそんな愛しいものを見るような目で見るのか、聞きたかったけどたぶん答えはしないだろうな。