第12章 惑わせ
「わ、私……もう、寝ないとダメなんです。明日から忙しくなるから……体力、つけないと」
石切丸「あぁ、そうだね。ここの本丸は穢れなんて感じさせないところでも主には……やることがあるだろうからね」
「っ……だ、だから石切丸さんのお部屋……いけ、ないです」
石切丸さんとて悪い人ではない。
ちゃんと理由を話して、無理ということを伝えればわかってくれるはず。
そう思って頑張って伝えたあと恐る恐る顔をあげ石切丸さんのことを見ると、残念そうに笑っていた。
石切丸「それなら仕方ないね。私も無理強いはするつもりはないよ」
話がわかってくれる人でよかった。
鼓動は早いままだけど、なんとかなりそうだ。
できるだけ目を合わせないようにしていれば薬研くんのようなことには多分ならない。
「じゃあ、私は部屋に……っ」
離れようとすると頬に触れられて上を向かされる。
今しがた目を合わせないようにって決めたのにっ!
「あ、あの石切丸さん……私、部屋に……」
石切丸「無理強いは、するつもりはないと言ったけど君がそういう気分になれば……問題ないよね?」
……あれ。
おかしいな……私は明日早いから早く眠りたいって言ったはずなのにおっかしいな。
にこりと笑っている石切丸さん。
苦笑いを浮かべるしかない私。
危険だよ!話を聞いてるようで聞いてない人だよこの人。
「な、何かしたら叫びますよ?」
石切丸「それは困るね?」
食堂からそれなりに離れてしまったとはいえ誰もいないわけではないんだ。
でも、困ると言いながらも全然困らなさそうな表情がなんとも気になって恐ろしい。