第12章 惑わせ
石切丸「そうか、よかった。怒ってはいないんだね?」
「怒ってませんよ……怒ってはないんですけど石切丸さんが……あ、あんなことするから隠すのに悩まされました」
神様相手に怒れはしない。
助けられたと感じたのは事実であるし感謝と共に思うところはあるが、悪いことをしたと反省してくれているのなら許すしかないだろう。
痕もそのうち消えるだろうし……
「もうやめてくださいね。隠すことで頭を悩ませたり薬研くんには全身見られたりとかして引かれたりもしたんですからもう心の消耗が……っ」
石切丸「……君はもう全身を見せられるような関係になった人ができたのかい?」
気のせいだろうか。
一瞬、石切丸さんの瞳が光ったような……暗闇だから月明かりとかでたまたまそう見えただけ、だと思いたい。
何かよくないものを感じて一歩、二歩と後ずさると背に壁が当たる。
「あ、あの……っ」
石切丸「どうしたんだい……?」
なんか、よくない。
さっきまで穏やかとは言いがたくとも優しげな雰囲気があったのに今は……逃げ出さないとダメなような気がする。
綺麗な藤色の瞳と目が合う。
気づけば手を伸ばさずとも触れあえるだけの距離に彼はいた。
近い……落ち着こうにも私の鼓動は高鳴り、何度も落ち着け、と心の中で思ってもどうにもならなかった。
「い、しきり……まるさん」
石切丸「ん、なんだい」
優しげな声。
ほっとするはずの声なのにそれが近くで聞かされると普通ではいられない。
でも、流されるな。
落ち着いて、落ち着いてれば逃げられる。