第1章 【雑賀孫市】雑賀の郷の夏祭り
夕刻になり、いよいよ夏祭りが始まった。
出店が並び、子どもたちが駆け出す。
金魚すくいに風車、お面に射的、ビー玉……他にも様々な食べ物が軒を連ねる。
(わぁ……楽しそう!)
「巫女様!一緒に遊ぼう!」
子どもたちに手を引かれ、千草は出店の並ぶ通りを駆け出した。
「今日の巫女様、なんか違うねー」
男の子が顔を覗き込んで首を傾げる。
「そ、そうかな」
「あ、この浴衣、うちのおっ母のだ」
浴衣を貸してくれた女性の息子だったらしく、男の子は得意げに言い出した。
「そうなの、貸してもらったんだよ」
「あ、巫女様紅もさしてる」
「かんざしも綺麗」
女の子たちはやはり見るところが違うようで、細かいところを指摘してくる。
「ありがとう」
(確かにちゃんとお洒落するの、久しぶりだな…)
元の世界にいた頃は当たり前のようにメイクをしたり美容院に行ったりしていたが、今は完全にその習慣が無くなっている。
(口紅くらい、ちゃんと手に入れて付けようかな)
「ねぇ巫女様、次は俺とこっちで遊ぼう〜」
「うん、いいよ」
子どもたちに手を引かれてやぐらのそばに差し掛かった時だった。
ガタンっ!!
何かがぶつかる音がする。
(えっ?)
すると、やぐらのそばに立てかけてあった木材が子どもたちと千草のところへ倒れ掛かってくる。
「危ないっ!!」
千草は咄嗟に前を行く子どもたちを突き飛ばし、手を握っていた男の子を庇うようにして抱え込みうずくまった。
(ぶつかるっ!)
ときは少し遡り、伊達の城。
隣村の山に潜んでいた山賊たちは、迎え撃つ伊達軍と雑賀衆によってあっという間に捕縛された。
「呆気なかったなぁ」
捕らえた山賊たちを前に政宗がホッとしたように言う。
しかし孫市の顔は少し曇ったままだ。
「ちと呆気なさすぎるな……」
孫市の言葉に、捕らえた山賊の一人がにやりと笑う。
「へっ……当然だ。本命はここじゃねぇ」
「……んだと?」
「……伊達軍と雑賀衆に賊が勝てるわけないだろうが。本命は雑賀の郷だ…!今頃、祭りの騒ぎに乗じて大変なことになってんだろうよ」
「……そういうことか」
孫市は頷き踵を返す。
「援護いるか?」
「いや、大丈夫だ……坊っちゃん、ここは任せるぜ?」