第8章 消えない声
「・・・ここは・・・どこだ・・・」
ヒカリとわかれて30分ほど経った頃、俺はなぜか奇妙な形をしたタコの滑り台がある公園にいた。
そもそもがおかしかった。駅からヒカリの家まではほんの数分の距離だったのに、歩いても歩いても駅にたどり着かない。そして挙句の果てに・・・このタコだ。
「・・・まいったな」
そう呟きながら俺はベンチに腰を下ろした。さすがに少し疲れた。
どうやって帰るか・・・遅い時間だし、人も歩いてない。凛に電話したところでわかるはずもない。となると・・・
「・・・あいつに電話するしかねえか」
俺はさっき交換したヒカリの番号を携帯に表示させた。さすがにまだ寝てないよな・・・でもあいつ、ガキみたいだからもうグーグー寝てるかもしれない・・・
そう思うと少し笑えてきて、俺はぼんやりとあいつのことを考えた。
今日駅の近くで会った時も、映画の時も相変わらずピーピーうるさかったけど、初めて俺の名前を呼んできたあいつ。頬を赤くして、その時は可愛いところもあるじゃねえか、なんて思った。
でも飯の時は『こっち見んな!』とか騒ぎ出して・・・
やっぱりうるせえな、なんて思ってたら今度は電車の中でも駅からの道でも、ほとんど話さないで。何か怒らせちまったのか、とか電車の中で押しつぶされてた時に気分でも悪くしたんじゃないのか、とか、柄にもなく俺はずっと考えていた。
・・・あいつの番号もアドレスも別に知りたくて聞いたわけじゃない。ただ・・・あいつの様子がおかしかったから、なんとなくまだあいつを帰したくなくて、思わず呼び止めたら・・・場繋ぎ、というか・・・はずみで聞いてしまった・・・そんな感じだ。・・・と思う。
『長島ヒカリ』
じっと画面に映ったあいつの名前を見る。
番号を交換した後、試しに少しからかってみたら、あいつはすぐにいつもみたいな調子に戻った。頬を赤くして怒るあいつを見たら、やっぱり面白いし飽きねえなこいつ・・・そう思った。だからまあなんとなく・・・お返しというわけじゃないけど、あいつの名前を呼んでやってもいいって思えた。
ただ、ヒカリって呼んだ時のあいつの反応を見れなかったのが少しだけ心残りだった。
あいつ、どんな顔したんだろうな・・・