第26章 『またな』
「宗介くん!ヒカリちゃんのこと、もう泣かさないでよね」
「ご、江先輩、もう大丈夫なので・・・」
ズイと江先輩が宗介さんの方に身を乗り出して言う。慌てて取り成そうとすると、宗介さんがぎゅっと私の手を握った。
「・・・ああ、そのつもりだ」
しっかりと私の目を見て言ってくれて、また頬が熱くなった。私もそっと、宗介さんの手を少し強く握り返す。
「よかった。ヒカリちゃんは私の大事な後輩なんだから・・・ね?」
江先輩はとても嬉しそうに微笑んでくれていて、私は思わず胸が熱くなった。
「・・・じゃあ俺も行くわ」
「あ、はい・・・」
・・・そうだ。本当の本当に今日はこれでおわかれなんだ。わかってる、これからはいつだって会いたい時に会えるってわかってる。それでもやっぱりさみしい。さっきまですごく宗介さんが近かったのに。
ゆっくりと宗介さんの手が離れる。
・・・ダメだ。私はすごくわかりやすいんだから、さみしいなんて思ってたらすぐ顔に出ちゃう。宗介さんにこんな泣きそうな顔見せられない。そう思って下を向いていたら、ぽんと大きな手が頭に置かれた。
「・・・またな、ヒカリ」
慌てて顔を上げると、しょうがねえな、と言った顔で宗介さんが少し笑ってた。そして、すぐに背中を向けて宗介さんは歩いて行ってしまった。
気のせい・・・かと思ったけど、気のせいじゃない。宗介さんが初めて『またな』って言ってくれた。これでおわかれ、じゃなくって次もまた、っていう小さな約束。
それだけで、出かかっていた涙はどこかへ行ってしまっていた。
顔を向けると、先輩達がみんな笑っていた。
「ヒカリ」
「ヒカリちゃん」
「ヒカリさん」
「ヒカリちゃん」
「さ、帰ろっか。ヒカリちゃん」
「はいっ!!」
先輩達と同じぐらい・・・ううん、それに負けないぐらいに私も笑って、それに答えた。