第4章 腹の底から
「そ、そんなに笑わなくたっていいじゃないですか!わ、私、バタフライなんて泳いだことないんですから・・・」
「ああ、わりぃ・・・ははっ」
いちごは頬を真っ赤にして、俺を睨んできた。一応謝りはしたが、あまり悪いとは思ってない。そしてまだ笑いが止まらない。こんなに腹の底から笑ったのも久しぶりのような気がした。
「もう・・・」
いちごは恥ずかしそうに目を伏せ、そっぽを向いてしまった。その顔を見下ろして、改めて面白い奴だと思った。あのままもう俺に関わらない選択だってあったはずなのに、わざわざ謝りに来て、めちゃくちゃなバッタの動き(思い出すとまた噴き出しそうになる)を披露してまで俺のことを褒めて・・・ころころ変わる表情も見ていて飽きない。
そんな面白い奴だから、俺も自分の非を認めてやろうと思ったのかもしれない。
「あー・・・俺も悪かったな。その・・・見ちまって?」
「あ、謝るのそこですか?!他にも色々謝るところあると思うんですけど!!」
「いや、一応お前も女だしな」
まあ、目の前にあったから見たというか、ほぼ不可抗力だったと思うが、女の下着を見るのは一般的に悪いことだろう。だけど他のことについては悪いと思ってない。実際こいつ、いちごみたいだし。
「い、一応?!・・・ほ、ほんと腹立つ・・・山崎宗介・・・」
「おい聞こえてんぞ。てか、フルネームはやめろ」
「い、いやです!だって泳ぎはすごいけど、先輩とかさん付けするような柄じゃないもん。だから山崎宗介で十分です!」
こいつはいつになったら俺をフルネームじゃなくてちゃんと呼ぶのだろう。まあ、俺も人のことは言えないが。
「はっ・・・だったらお前もいちごで十分だな」
「ちょ、ちょっと!私の名前は長島ヒカリだって何度言えば・・・」
「お前、ちっこくてすぐ赤くなるからいちごでいいじゃねえか。そんじゃな・・・いちご」
ぽんと頭を軽く叩いてやると、俺はいちごの横を通って再び歩き出した。
「ひゃっ!!!・・・こ、こら!待て!!山崎宗介!!!」
また怒っているようだが、この前は俺がバカだなんだ言われたんだから、これぐらいはいいだろう。真っ赤になっているであろういちごの顔を想像するとまた笑いがこみ上げた。