第5章 『そろそろ夏ね』
桜が散り、新緑がめぶき、季節は移り変わる。変わらないものと言えばそれは、私の友達の人数くらい。
まぁ、いまだに友達なんていないのだけれど。
「おい、前野」
いや、友達ではないがたったひとりだけいた。
不思議な人で、私の前では笑うクセに、ほかの人の前ではおもしろくらい無表情を貫くのだ。
別に彼に好かれる様なことをした覚えはいまだにないんだけれど。
「なにか?」
「昼休み。飯、食おうぜ」
お弁当を軽く持ち上げて笑う。私にしか見せないキラキラの表情で。
「誘ってくれたなら残念。今日お弁当ないの、また今度にしてくれる?」
すると、驚いた顔をしたかと思えば今度は戸惑った様な顔をして言った。
「そうやって食わないからそんな細い腕なんだな」
なにかに納得したようで、うーんと唸ってから私の腕をあり得ない程自然な動作でつかんだ。
「おごってやるからついてこい。購買まだなんか残ってんだろ」
は!?
なに、おごるって!
て言うか、なにナチュラルに腕なんか掴んでるのよ!
「おごりとか、そういうの悪いから!!」
「気にするなって。オレのバイト代だから」
なおさら気にするし!
「悪いと思うならちゃんと食ってくれればいいだけだし、な?」
そう言われてしまっては食べるより帆かがない。
「じゃあ、これは借りだから、なにかで返す」
「いらねぇよ」
私に背を向けて歩き出す宮代君のハツラツとした笑い声が、私には少し眩しかった。
宮代君があんまりにも【彼】そっくりだったから。
急にあの日の放課後の夕日の光が、瞼の裏でフラッシュバックした。