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君はオレの全てで、生きる意味なんだ。

第1章 『お前、何のつもりだ?』


 桜が咲き誇る4月。オレが通う伊賀高校では今日、始業式が行われた。始業式なんてかったるい校長の長話を聞くだけのつまらない式典だ。

 そんなつまらない式典に律儀に出席しているのは単位の為と言ってもなんの過言もないだろう。就職希望者の学生にとって、単位とは就職できるか否かを判断する一番分かりやすい基準そのものだからだ。単位の為と言うのは、就職の為と言うのとなんら変わりはないのだ。

 そんな訳でオレはこれから一年間、顔すら覚えていない連中と毎日顔を付き合わせないといけないという、地獄のような何かにため息を付きながら渋々といった体で教室の窓際の一番後ろの席にどかっと腰をおろした。

 誰もがあのつまらない始業式に疲れきっているのか、各々気の知れた友人とガヤガヤと会話をし始めたのにともなってオレは机に突っ伏した。騒音をシャットダウンするためにイヤホンで曲を聞きながら一眠りすることに決めたからだ。
 
 目を閉じれば、眠気はすぐそこにまでやって来ていて、オレは暖かい春の陽気に自らの意識が重く沈んでいくのを感じながら心地よい睡魔に身を委ねたのだった。

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 後頭部に重い衝撃を受けて飛び上がるように顔を上げた。

(はぁ?女?)

 顔を上げた先には端正な顔立ちをした女子生徒が立っていた。どうやらオレの頭を叩いたのは彼女のようで、その手には教科書を丸めて作ったような、ある種の凶器が握られていた。

 クラスの人間は皆こちらを見ていて、ある者は笑って、ある者は戸惑いの表情を浮かべていた。まるで、サーカスのライオンになった気分だ。

 普段から協力的でないオレを疎んでいる奴というのは少なくないらしく、幾らか前はいじめまがいのことをされてはいたものの、そのどれもがあまりにも稚拙だったもので、仕返しをしてやったらそれ以降オレに対するいじめというのは無くなった。

「私が自己紹介しているんだから、聞きなさいよ」

「あ?」
 
 黒板に目を向けるとそこには、
【前野 百合華】
と、名前が書かれていた。

「人の話すらろくに聞けないくせに社会人になれるなんて思わない方が良いわよ」



 今思えば、これがアイツとの初めての会話だったんだ。





 



 
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