第6章 初めての感情です(中原夢)
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誰しもこの人の特別になりたいと思った事はあるはずだ。
なんてったって人間だもの。
私は特に誰がいいとかは無いけれど、誰かしらかの特別にはなりたい。
というか、そもそも特別とは一体どういう事なのだろう。
ふと考え始めたことが頭から離れない事はよくあること。
直ぐ隣でワインを飲んでいる、少し酔っているであろう中原さんに意見を聞いてみることにした。
「中原さん、質問いいですか。」
「あ?...、別にいいぜ。」
一瞬だけ此方の顔を見たかと思いきや、直ぐに逸らして残り少なかったワインを飲み干して、更に開けていない新品のワインを手に取った。
多分私が変な顔をしているから直ぐに逸らしてくれたのだろうけど。
「中原さんの特別な人って誰ですか?」
「...、特別?」
「はい、特別です。」
私もグラスの中のオレンジ色のカクテルを飲み干して、少しだけ酔いを回す。
普段こんな事幹部に聞くなんてまずありえない事だけど、酔いが回っているからかすっと問うことができた。
「...、別にいねぇなぁ...。」
「...、そうなんですか?てっきり美人な恋人とかいるのかと。」
噂では相当美人な恋人がいるって聞いてたけど...。
やはり噂は頼りにしてはいけないと改めて実感する。
そうそう、太宰さんだって噂でどぎついプレイが好きだとかどうとか流れてたけど、仲の良い安吾さんがいうにはそんなプレイは寧ろ嫌いだとかなんとか。
他人の噂を聞くぶんには別に良いのだけれど、知り合いの噂を聞くのはどうも疑わしいところがある。
....まぁ、他人の噂だって疑わしいものばかりだけれど。
「手前はいねぇのか?」
「え?何がですか?」
「恋人だよ、恋人。」
「え、」
その質問に一瞬思考が停止する。
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