爆乳政治!! 美少女グラビアイドル総理の瀬戸内海戦記☆西海篇
第6章 渦 ―船上―
須崎は少し、引き攣(つ)った顔でそう聞いた。正直、こんな話し方をするのを初めて聞いたからだ。花蓮は常の通りに顔を整えた。
「いいえ、司祭様。恨みを抱く程の面識はありません。ただ」
「ただ?」
「傭兵稼業の連中は皆ど畜生だと、〈主人(Master)〉からいつも言われているので」
「ああ、そう……。あなたの所はそう思うわよね……」
〈主人〉の方か。須崎は花蓮の主人については僅かに知っている。今は組織を〈指導者(Mother)〉に放り出して好き放題やっているようだが、あの【イカレた人格】が回復したらまた戻って来るだろう。花蓮の口振りからすると、まだ心の傷口は開いたままのようだ。開いたままでいれば良い。きっと奴には幸福だ。
きっと、花蓮は知らないだろう。知らないでいて欲しい。出喰わせば、見るほどにおぞましく、脳裡より離さないだろうから。僅かに知る者は勝手にそう案じ、本題へ帰った。
「まあ、良いわ。んで、羽床君。続けて頂戴」
「あ、はい」
羽床はまだ呆けたままだったようで、返事から一拍置いてから報告を始めた。
「1人はジャルコ・ゲリッチ。元セルビア陸軍の将校で、コソボで300人以上の民間人を殺害した咎の為に国際手配中の傭兵隊長です」
「弱い者いじめじゃないの」
羽床航海士は屈めた腰回りに着けている携帯電話用のケースに手を伸ばし、そこから一枚の折り畳んだ紙を取り出して、目を落としながら続けた。
「現役の折りには様々な特務を任されてきた奴です。加えてチェチェン紛争とグルジア侵攻の際にはロシア兵として勲功を得ております。終いには南スーダン軍に加勢してジャンジャウィード(Janjaweed アラブ民兵)狩りをしていたようです」
「正真正銘の猟犬か。たまげたわ。セルビアでロシアって事は大セルビア主義者か。時代錯誤も良いところね」
「今はツル…ヴェナ、ズヴェズダ?とか言う傭兵隊を率いているそうで」
「ツルヴェナ・ズヴェズダね」
須崎はメモを見ながら言い慣れず戸惑う羽床に少し苦笑した。
「これは一体…?」
「《赤い星》って意味のセルビア語。サッカーチームで知らないかな? レッドスター。旧ユーゴスラビア(Yugoslavia)時代は強かったんだけどね」
「…申し訳ありません。サッカーはあまり」
「んもう! 教養レベルよ、この程度は」