
第1章 お菓子の魔女のデュエルには。

見た感じ、草薙の言うようにただ満席になっただけでは無い様だ。どうやら店が客とモメているらしい。
ガラの悪い男が複数人、店員を脅している。
「---だから『お菓子の魔女』とデュエルさせろって言ってんだよォ、何で理解出来ない訳ェ?」
「優し~い日本語よコレェ?」
「も、申し訳ありませんお客様…『お菓子の魔女』は曜日限定のサービスになっておりまして…」
「そんな事聞いてねぇんだよ!とっとと呼んで来いやァ!!」
「ひっ…!」
おろおろとした様子で迷った末、店員はカウンターの奥へ戻る。男たちの要求を飲むのだろうか。しかし、『デュエル』以外の単語は聞き馴染みのないものばかりだ。
「…『お菓子の魔女』?」
「あれ、おにーさん知らないの~?」
「こら、偉そうに言わないの!」
「あ、イエ…大丈夫です…」
「すみません…。ここのカフェのサービスなんですって。何曜日かに『お菓子の魔女』さんとデュエルをして、勝ったらお菓子が貰えるって言う…」
「あたしもでゅえるしてもらった事あるよ~!とっても強いの!」
大の男がそんなサービスを要求しているのか…。
みっともなさ過ぎる。静かな方が好きな遊作は、菓子が欲しいだけでどうしてあんなにも事を大きく出来るのか理解できなかった。しばらくすると、店員が2人になって出てきた。
「おっせえんだよ!どんだけ待たせれば気が済むんだ!?」
「…申し訳ございませんお客様。しかし本日『お菓子の魔女』のサービスデーではございません。どうかお日にちを改めてご来店頂ければ…」
「てめェ、俺たちの要求が飲めねぇってか!?」
ガァン!!
男の1人がテーブルを蹴飛ばす。大きな音に周りの客の不安さも増したようだ。
「店めちゃくちゃにしてやろうかコラァ!?」
「お止め下さいお客様…!」
「(…警察を呼んだ方が早いな)」
飲食店で警察沙汰なんてイメージが悪いだろうが仕方ない。カフェ側は穏便に済ませたかったんだろうが、このままにしておく方がよっぽど事態は悪化する。
遊作が警察の番号に連絡を取ろうとした時、奥から涼やかな声が響く。
「お待ち下さいお客様!!」
「!!」
「それ以上、他のお客様のご迷惑になる行為はご遠慮下さいませ?」
他の店員とはまた違った格好の女性は、余裕たっぷりの笑顔でこう言った。
「ご所望とあらばこの私、『お菓子の魔女』が相手致しましょう!」
