第2章 お菓子の魔女の正体は。
「よし、調理実習頑張ろー!」
「(…あまり関わるまいと思った途端にこれか…)」
翌日、家庭科の調理実習。組み分けが発表され、掲示板に示された班に行けば昨日の女生徒も一緒だった。
IT社会の中でも最低限の家事が出来るように、とカリキュラムに残っている家庭科実習だが、今日ばかりは忌々しい事この上ない。
「そう言えば、藤木君の名前は遊作って言うんだね」
「あぁ…」
「藤木は綺麗な感じだけど、遊作は恰好良い感じがするね」
「…(俺はアンタの名字も名前も知らないんだが…)」
昨日帰った後は解析に必死になり過ぎて、イグニスから聞くのを忘れていた。
テキパキと調理の準備を進めながら話しかけてくる女子はどこで自分の氏名を見る機会があったのか。
「あ。僕の名前知らないんだっけ」
「…済まない」
「はは、良いよ。僕も藤木君の事、後頭部ばっかり見かけてて顔知らなかったし」
「寝落ちている事を暗に責めてるのか?」
「そんなんじゃないよ~、怒らないで?って言うか掲示板見たら分かったのに」
「!」
そうか、班分けの。
自分の班番号だけ見ていたが、勿論その他の班員の氏名も掲示板には載っている。
とは言え、遊作は他の生徒の名前が分からないので分かる確率は何分の一かでしかないが。
「僕は名字 名無し。名前は気に入ってるから名無しって呼んでね」
「カイ…」
「うんうん。じゃあ僕は恰好良いから遊作と呼ぼう」
「オイ」
「はい、これで終わり~。後は冷やしておくだけってね」
名無しが勝手に話を進めていくとあっという間にお友達の構図が出来上がった。
鮮やかすぎる手口に遊作はげんなりしたが、手際の良さは正直助かった。遊作自身、実習は何もする事なく終わりを迎えることができた。
「僕たちはデザート担当だから、おかず担当の人たちが出来るまでは洗い物とかしよう?」
「まだあるのか…」
「早く帰りたいって?遊作は今日も用事があるのかぁ、大変だね。でも今日は僕もバイトあるから、サクッと終わらせて帰らなきゃ」
快理はチラリと時計に目をやったのだった…---。