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いとし、いとし【短編集】

第24章 剥き出しの正義は辛い【krk 宮地清志】


「お前ら、何してんだよ‼轢くぞ‼」


その一言で、
私を取り囲んで見下ろしていた人達は、

たった一人…綺麗な先輩を除いて、

慌てて去って行く。




じゃり…

地面を踏み締める音で、うずくまっていた顔を、上げた。


目の前には【放課後 温室の裏】と端的に用件が書かれたメモが差し出される。


「何で、こんなんに素直に従ってんだよ!バカかお前は‼」


未だ、怒りを孕んだ声で怒鳴る、一つ年上の清志くんに私は再び下を向いて目をそらせて…


「大丈夫か?」

私の隣にしゃがみこみ、背中を擦ってくれる同じ年の裕ちゃんにコクコクと頷き、ぎゅうっと自らの腕で、自らの身体を抱き締めた。





従兄弟であるこの二人に、好意を持つ人が多い事は知っている。

そして、

家の都合で宮地家で過ごす事が多い私が、彼女達にとって疎ましい存在であることも…。


特に清志くんは、小さな頃から、もちろん今でも、どんくさい私の世話を焼いてくれるから…。



この呼び出しだって、その類いである事も分かっていた。


でも、今までの経験上、これに応じないともっとひどい目に合うのも分かるから…

私には行かないなんて選択肢は無かった。

けど…今回は行ったらダメなやつだったんだ。




「おい!結依!聞いてんのかよ‼」


大きな声に反射的にビクリと跳ねる身体。


「大丈夫だぞ…」と裕ちゃんに頭を撫でられて静かに首を振った。



先程まで、男女の力の違いを痛切に感じていたのだ。


結果的に…

二人が来てくれたおかげで、
確かに、何も無かったんだけれど…

恐怖を感じるには充分過ぎるくらい充分だった。





「怖かったな…」

そう、頭を撫で続けてくれる裕ちゃんは、顔を上げて清志くんを睨む。


「もう怒鳴んなよ‼元は兄貴が原因だろう?あの女、どうにかしてこいよ‼」


裕ちゃんの言葉に、聞こえるのは清志くんの舌打ちの音。

いつも、こうだ。
自分でなんとかしようと思ったのに…。


また、迷惑を掛けてしまった…。









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