Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―
第6章 「最後の審判」JUDGEMENT
聖「…御容態は如何ですか、顕ちゃん?」
十三宮顕
「はぁ…お蔭様で、どうにか」
聖「あの『村』で何があったのか、覚えていますか?」
顕「﨔木長州にレールガンを撃たれたが、絶縁防弾を一応装備していたから、見ての通り、致命傷は免れた。ただ、衝撃波で頭を打ってしまい、意識が朦朧になって、その後は…うっ!」
聖「あ、無理に話さなくても大丈夫です。お姉ちゃんの精神感応(telepathy)で、読心致しますので」
アプリコーゼン室内に居た十三宮顕(寿能城代)は、﨔木長門の無差別砲撃で気絶し掛けていたが、その際に、長門の悲鳴らしき声が聞こえた。意識が少し戻ると、室内には自分と長門しか残っておらず、不審に思った寿能城代は、外の様子を見に行った。そこで、何者かに背後から襲撃され、呑川に突き落とされたのである。ならば、その「犯人」は…。
顕「状況から考えて、私と﨔木長州を襲った者は、同一人物である可能性が高い」
聖「ですが、そのように考えますと…」
犯人は、アプリコーゼンの周辺、あるいは内部に居た可能性が考えられる。その場合、﨔木長門が言っていたように、一同の中に「人狼」が潜んでいた…という話も、現実味を帯びてくる。ヒトとしての知性を維持したまま、食人種に変異してしまった「劣性感染者」が、本当に居たのかも知れない。
顕「いずれにせよ、今は行方不明の三人を見付けなければ」
聖「ええ…既に、手配は済ませております」
入谷「…失礼する、面倒な事になった」
義勇軍の用心棒を務める入谷枯桐(いりや ことう)が、慌ただしくやって来た。冷静沈着な入谷が慌ただしく見える時とは、本当に慌ただしい事態なのだろう。
聖「入谷様、どうしました?」
入谷「新羅隆潮が、生田・斎宮・美保関らを指名手配せんと策している。彼らを、裏切り者ではないかと疑っているようだ」
顕「何だと?被害者であるはずの彼らをスパイ扱いとは、奴も遂に痴呆か…入谷様、式部様を暗殺して下さい! 我々に対する、数々の無礼な仕打ち…最早、レッドラインですっ!」
入谷「…不可能ではないが、本当にそれで良いのか?」
聖「顕ちゃん、落ち着いて下さい! 心を憎しみに染めてはいけませんよ…もう少し、平和的な選択を考えるべきです」
顕「あぁ…済まない、取り乱してしまった」
入谷「殺さずとも、方法はある。例えば…」