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Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

第5章 「吊られし者」THE HANGED MAN


道理「…で、そのオカルティック助言で思い付いたのが、手前のVRを造り、そいつに『吊られし者』の役割を押し付けるって事か…回りくどい」

塔樹「ゲームで確実に負けない方法は、そのゲームに参加しない事だからな」

道理「それには散水…いや、賛成」

 アプリコーゼンに居た塔樹無敎は、「事実を転回させる」という意味の込められたタロットカードを装備した状態で、﨔木長門に射殺された。その瞬間、「塔樹無敎は死亡した」という事実が「偽」となり、「塔樹無敎は生存している」という事実が「真」となる運命が、確定したのである。そして、この確定した運命を現実に適用した結果、「殺された塔樹無敎は偽者であり、本物の塔樹無敎が別に存在する」という「世界」が、数多の確率=可能性の中から選択され、今こうして「現実」を構築しているのである。私達が認識している現実世界とは、実は無限大に存在する宇宙時空間の、その一つでしかない。この「運命の相対性」こそが、塔樹無敎が十三宮聖から授かった智慧にほかならない。やはり、知は力である。

津島「夜這(よば)れし者は、汝等か?」

 前方に、全身を黒衣の包帯(veil)で覆った、見るからに不審な怪僧が一人。しかし、この者こそは、二人が会合を予定していた、津島三河守長政である。数年前に「人喰い族」を調査していた、あの司書学芸員だ。

塔樹「あなたが、聖さんと先生の言っていた、津島三河ですね?」

津島「然り」

道理「で、当職にどんな戦場を用意してくれるんだ? 無論、報酬もな」

津島「伊豆まで来て貰う」

塔樹「伊豆高原に、ですか?」

津島「伊豆には現在、反射炉の史跡より開発せし新兵器『反射砲』が在る」

塔樹「は…反射砲?」

道理「電機は使えないはずでは?」

津島「反射砲の源は、陽光だ。陽光を以て、陽光を撃つ…其(それ)が何を意味するか、理解出来ぬ汝等ではあるまい?」

道理「太陽の光と熱を反射炉で増幅させ、そのエネルギーをレーザー砲として発射する…要は、ソーラーだけで完結する兵器というわけか」

塔樹「それなら、例え電力を確保できなくても、太陽光さえあれば、つまり天候が晴れていれば、それだけでレーザー攻撃ができるという事だ!」

道理「その反射砲とやらを掌握した者が、この戦争の勝者に成る…そういう策だな?」
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